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Channel: 思いのしずく
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旅人

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40年も経つと、これ程まで記憶が薄れるのか、そんな認識を新たにした。

学生街 お茶の水の大学に入学して、飛び込んだサークルが史蹟研究会だった。

メンバーの溜まり場は喫茶店 「李園」 で、そこに連絡ノート  (携帯電話のない時代の情報伝達手段)  があったことも忘れていた。

1年生から4年生まで、席についた人はなにかしら連絡帳にコメントを記入した。

田舎から上京したばかりの人間が大都会、マンモスキャンパスをうろうろしながら、李園が唯一自分の存在を証明する場であり、人とつながる道だった。

そのノートの文末にしるす署名が、本名であったり、ニックネームであったり、様々だった。

前回紹介したM氏が以上のことを思い出させてくれた。

彼は 「文徒」 を署名に使っていた。

本名は 「文人」 だったが、「文徒」 を名乗り、後年、山梨日日新聞の1面を飾るコラム 「風林火山」 の署名に 「徒」 を使った。

その彼から、「君は旅人を使っていたね」 と言われるまで、すっかり “たびと” を忘れていた。

彼は文に従い、徒然なるままに文を操る新聞記者になった。

自分は大伴旅人ならぬ寅さんのような、旅から旅の日々を送っている。

昨夜山梨から帰って、今朝は讃岐を目指して東海道新幹線の車中である。

未来に対して夢は多くとも、なんら当てもなく不安を抱えていた18歳の青年が、ノートの端に印したちょっと気取ったペンネームが、その後の人生を象徴するものであったことを思い出させてくれた友のありがたさ。

彼が土産にくれたコラムのコピー集が、今回の旅の友である。

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