奈良近鉄百貨店は作家にとっても、私にとっても、初めての仕事。
「とっても可愛いです、これを頂いてもいいですか。」
と言ってくださった最初のお客さまとの出逢いには、ドラマがありました。
店員さんが作品を包んでいる間に、少し会話しました。
「今日は私の50歳の誕生日を記念して、たくさん買い物をしました。」
とおっしゃるお客さまの手元を見ると、百貨店の買い物袋をたくさん提げています。
ちょっと不思議な祝い方だなと思っていると、
「自分が50歳になったことを記念して、感謝したい人へのプレゼントを探しに来ました。この人形はお母さんへ贈ります。私が小さかった頃を思い出してくれたら嬉しい・・・。」
そういうことだったのか、と感心してしまいました。
袋の数からして、お父さんや他にも感謝したい人がたくさんいるようです。
疾うに過ぎた我が50歳、そんなこと微塵も思わなかった自分の誕生日、何も記憶に残ってないのもムベなるかな。
奈良に来たことのない渡辺先生が、個展の作家として生まれて初めて来た奈良で、今日は2度も涙が出てしまったと語ってくれました。
開店前の朝一番で、百貨店に近い秋篠寺で奈良の仏教美術に初めて触れ、伎芸天の美に涙がこぼれたそうです。
そして誕生日プレゼントのお客さまの言葉に心を揺さぶられて。
(写真の作品は渡辺邦彦「夢見」。文章とは関係ありません。)