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Channel: 思いのしずく
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書業50周年・岡本光平展 4

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 「前」 という作品について。 
なぜ、岡本光平がこの文字を選んだのか、多くのお客様が疑問を持たれたと思います。

名古屋三越の画廊に展示されていた約40点の作品は、それぞれ一文字、一語、あるいは一篇の詩の中にドラマを感じさせる作品が並んでいました。
そうした中で、「前」 という文字は平凡で、深い意味まで想像し難いものがあります。

文字の意味を考えるよりも先に、紙の特異さに目が奪われて、紙に関しての質問が多かったです。
紙は韓国の仁寺洞(インサドン) で出合った柿渋紙でした。

さらなるヒントを求めて作品全体を眺めると、遊印に「寒暑」とありました。
なぜ、寒暑なのか?

岡本先生の解説によると、「前」 は戦国武将の鎧櫃の前に書かれていた文字だそうです。
勧進帳にも出てくる9文字の魔除けの真言 「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」 の前(ぜん) であり、鎧櫃に前と書くのは、敵に対して積極的に前に出るという意味と、前面で持ち主をしっかり守るという願いが込められているのだと知りました。
常住坐臥、戦陣にあれ、という武士道に生きていたサムライ達の心境は、凄いものがあります。

岡本先生はチンギスハーンの軍師・耶律楚材 (やりつそざい) の書に感化されて、この 「前」 を書いたそうです。
耶律楚材を調べてみたら、禅宗にも帰依していた人、モンゴル帝国のサムライだったのでしょう。

耶律楚材は遼 (契丹) の王族として生まれましたが、遼の滅亡後は金の官僚として仕えます。
その後モンゴルの侵攻を受けて金は滅びますが、楚材はチンギスハーンの目に止まり側近として仕えることになりました。

大草原に興亡した歴史ロマン、耶律楚材は祖国を失いながらも艱難辛苦に耐え、まさに寒暑厳しい過酷な運命の荒波を生き抜いた人だったのです。

「蝶」 という作品もありました。
蝶は生命再生・復活の象徴、侍たちが鎧兜を蝶結びにしたのにも、そんな訳があるそうです。


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香川県の高松三越、宮城県の藤崎デパートに継いで開催した岡本光平空海展でしたが、名古屋三越では空海さん人気がもう一つ盛り上がりませんでした。
その理由は、戦国大名のヒーローを多数輩出した土地だけあり、武士の気風に添う禅的な作品の方が受け入れられたことが面白いと思いました。

それらの作品をご紹介致します。


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その土地土地の歴史の土壌の上に、人は暮らしているのですね。

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