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Channel: 思いのしずく
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ジャッカ・ドフニ

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「地の涯に生きるもの」
この言葉には強烈に惹かれるものがあります。

憧れのモンゴルから帰ったばかりで、センチメンタルになっています。それはそこで見たものが余りに素晴らしかったから。
我々が訪れたのはモンゴルという国ではなく、我々の先祖の源流の地だったのだと思います。
モンゴルは日本から見たら西の国ですが、そこに住むツングースやブリヤートの人々は、シベリアを経て北から日本列島に渡って来て、私たちの祖先の一脈となりました。
岩画調査でロシアのアムール川、バイカル湖を訪ねた後に、モンゴルの調査に入ったのは、その逆のコースをたどったことになります。

よく知られた「知床旅情」の原曲は、森繁久彌さんの作詞で「オホーツクの舟唄」。
東宝映画「地の涯に生きるもの」の主題歌で、その2番に「誰に語らん このさみしさ」という呟きがあります。

オホーツク シレトコ クナシリ
これらの響きを口づさむだけで、心に北の旅情がわき上がる自分は何なのだろうと思います。

 思い返せば、二十歳の頃から少数民族の人々に関心がありました。
少数民族に関心があったのは、自分もマイノリティ人間だったからだと今にして思います。(セクシャルマイノリティのことではなく、気がつくと多数派よりは少数派にいることが多い)
北海道でアイヌの方々と会ってから、サハリンでウィルタやニブフ、シベリアでツングース、シルクロードでウィグルの人々と会ってきました。

そんな自分に、少数民族ツングースの末裔を名乗る津島佑子さんの小説「黄金の夢の歌」は、青天の霹靂のように訪れたのです。
中央アジアのキルギスの高原を舞台に、幾多の遊牧民が興亡した民族叙事詩。
主人公がキルギスのチョルポン・アタにある岩画野外博物館を訪ねる場面もあります。

太宰治の遺児津島佑子さんの妹、太田治子さんには絵画展のゲストとして何度もお会いしていたので、姉とも繋がったことの不思議にびっくりしました。

その津島さんが遺してくれた「ジャッカ・ドフニ」を読みました。
「主人公の娘チカップは、日本人に迫害されたアイヌの母を持つ孤児だ。記憶にない母が歌ってくれたアイヌ語の子守歌が口をついて甦り、彼女を支える。言葉が人を救い、生かす。
ジャッカ・ドフニとは、サハリンの少数民族ウィルタの言葉で、“大切なものを収める家”という意味だそうだ。父(太宰治)を知らず育ち、自身は母として幼い息子を亡くし、アイヌをはじめ歴史や社会の周縁に追いやられた少数者へ深い愛情を傾けた津島佑子。本書はこの不世出の小説家の人生そのものが収められた、言葉で編まれた“ジャッカ・ドフニ”なのだ。」(読売夕刊、文芸季評 小野正嗣)

 「地の涯に生きるもの」たちの「誰に語らん このさみしさ」という呟きが、草原の風にまぎれて聞こえてくるような物語でした。

岩画に描かれた人が狩りをする動物たちの豊穣の世界は今はなく、数え切れない民族が消滅していった夢の跡が広がる大地、いまも少数民族の人々は自身の暮らしを守ろうとして生きています。

ポピュリズム(大衆迎合主義)の今日、マイノリティに心の軸を据えて創作し続けた津島佑子さんの物語をもっと読みたかったのですが、今年2月に草原の風になって旅立たれました。

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