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Channel: 思いのしずく
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ロマンを求めて

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世界最後の秘境という言葉が現実味を帯びなくなった今日、本書を手に取るのに一瞬の躊躇があったが、ナショナル ジオグラフィックの記者ということで読み始めた。
中米ホンジュラスの東部にモスキティアと呼ばれる人跡未踏の地がある。
毒蛇、ジャガー、ジャングル、熱帯病が人の侵入を阻んできたが、ジャングルの奥に白い石造りの「失われた都市」が眠っているという古い言い伝えがあった。
本書はこの伝説の都市の発見にいたる探険記なのだが、現地までヘリコプター、GPSやライダーによる解析を使っての調査方法がまったく新しい。
過去の探険ではジャングルの木や蔓を切り倒して遺跡を探す、肉体的困難がつきものだった。
ライダーとは10年ほど前に開発されたリモートセンシング技術の一種で、上空から観測対象をレーダーで探査する。
肉眼では樹木に覆われたジャングルでも、レーダー画像が地上の人工構造物を写し出す。
2012年にジャングルのライダー探査、15年に地上調査、16年に発掘という考古学の最新テクノロジーを知ることが出来た。
モスキティアの失われた都市を調べると、マヤ文明とは違った都市が栄えていた様子が伺える。
この大発見にホンジュラスの大統領も、国を挙げての協力を約束。

ここまでが前半、後半はジャングルからそれぞれの国に帰った研究者やカメラマン、著者をはじめとする関係者を待ち受けていた熱帯病との闘いである。
1526年スペインのコルテスが新世界を発見し征服した。それは旧世界の病原体が、免疫のない新世界の先住民を大量死させることになった。
本書は新世界で起きた流行病による致死率は90パーセントと試算しているが、そのわずかに生き残った人々が都市を捨て、姿を消して500年が過ぎたのだ。
著者は悪夢を予想する。
かつて旧世界から病原体が新世界に渡ったが、今度は新世界のジャングルから自分たちが免疫を持たない病気がやって来ることを。
そして次のような事実も指摘している。
「ナッシュ医師は、45年という職業人生のすべてをアメリカ国立衛生研究所の寄生虫学部門で過ごした。彼がそこで働きはじめたころ、寄生虫学は「科学から取り残され、誰も興味をもたず、誰も一緒に働こうとはしなかった」。寄生虫病に苦しむ人の大半は貧しく、感染症医療はたいてい有償ではない、寄生虫生物学は医療関係ではもっとも報酬の低い分野の一つだ。この分野の医師は、心の底から他人を思いやる人でなくては務まらない。きわめて高額の医学教育を十年間受けたあげくに、世界でもっとも貧しく弱い立場にある人びとのためにわずかな報酬で長時間はたらくことになる。たくさんの人の苦しみと死を目にするだろう。見返りに得られるのは、その苦しみをほんの少しだけ取り除いてあげられたという満足感だけだ。寄生虫学者になるのは特別な人だ。」

お金にならない医療には研究者のなりてもない、エジプトやインカのような稼げる遺跡には研究者が集まる。
ホンジュラスのジャングルのピラミッドのように、今まで誰も関心を持たなかった伝説の都市の探険に本気でチャレンジした人々のドラマに興奮させられた。
ジャングルの熱帯病との命がけの闘病生活からやっと脱出し、またジャングルへ出かけて行く人々の勇気と情熱、久々に熱い本だった。

探険ではないが、来月モンゴル・ゴビ砂漠へ岩画調査に出かける。
一万年前の人々が岩に彫ったアートにまた会えると思うと、ロマンを掻き立てられる。

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その前に過去のロシア、モンゴルの岩画拓本を見ていただくイベントが開かれます。

「岡本光平展 ROCK  ART  in  ASIA」
~ロシア、中国、韓国、そしてモンゴル、1万年の時空へ~

■会期 7月11日(火)~17日(月・祝)
        am11:00~pm6:30、最終日pm5:00終了
■会場 銀座 ギャルリ・サロンドエス (℡03-3571-3321)

      
■ギャラリー・トーク 7月15日pm2:00~
           「知られざる岩画世界1万年」
■「がんが」筆ライブ 11日~15日pm1: 00~5:30
       T シャツ、ストール、扇子などにリクエストで書や岩画を書き入れます。(有料)

 


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