ツアー3日目
翌23日は朝からデル山で拓本を採り、2番目の岩画調査地ウルジート・ホーダスへ向かう。
その途中、我々の3号車の後に続く4号車に乗っていた岡本先生が、クルマの前を横切る野生のヒツジを目撃した。(ヒツジOvis は岡本先生を団長と睨んで挨拶に出向いたのか)
そのまま猛スピードで岩山を駆け上がって行ったヒツジのパワーは想像を絶していたという話を聞いて、ガイドのボロルマさんが教えてくれた。
モンゴルでは野生ヒツジの肉は衰弱した病人や老人を蘇生させる力を持っているので、非常に珍重されているのだという。
これらのエピソードから、今まで自分が岩画に抱いて来た「食糧としての生き物たちへの感謝」が彫られているという捉え方が、いかに小さいものであったかということを知った。
2番目の岩画調査地ウルジート・ホーダスも山の頂きに岩画が集中していた。
その山の麓には中国タクラマカン砂漠で見た「胡楊(こよう)」らしき樹が数本、巨怪な姿で立っていた。
胡楊は地上に3000年身をとどめると言われている。
成長するのに1000年、枯れるのに1000年、枯木が砂に還るのに1000年。シルクロードの砂に埋もれた幻の都から発掘される建築材である。
岩画のある山と胡楊の間に崩れ落ちた寺院跡があった。17世紀頃に建てられたラマ教寺院で、ソ連侵攻と宗教弾圧によって破壊されたとのことだった。
山頂には宇宙人のような形をした岩画があった。
ウランバートルを出て2泊目はダランザドガドのゴビ・サンド・ホテル。
ツアー4日目
ゴビ観光への地方空港があるダランザドガドは、恐竜発掘の地へ近い町である。
ガイドのボロルマさんは10数年前のツアーで、恐竜の大腿骨の化石が転がっているのを見たことがあると言ってた。
我々はひたすら岩画を目指す。
次の岩画ポイントであるセルベイ岩画までは270キロメートル、その途中にゴビ砂漠最大のホンゴル砂丘があるため、近くのゴビ・エレデネ・ツーリスト・キャンプに2泊した。
ツアー5日目
草原を離れて四駆のワゴン車が、約50キロメートルの道を標高を高めて登って行く。
そこは恐竜時代の火山地帯の特撮が出来るくらい砂礫の荒野だった。
その灰色の風景の中に、太陽光で真っ黒く焼けた岩肌の山塊が連なっているところにセルベイ岩画があった。(正確にはセルベイは近くの村の名前)
たくさんの岩画が彫られていたが、全体的に彫りが浅くて拓本には難しかった。
妊婦と生まれて来る子のために頑張るポーズをする夫図があったり(ガイトのボロルマさんの説)、クリスマスツリーのように巨大な角をした大鹿の図が珍しかった。
ここからキャンプ場に帰ろうとした時に、猛スピードで駆け去る3頭のモンゴルガゼルを目視出来た。
テレビを通して見る野生動物のスピードとはけた違いに速かった。テレビは望遠レンズで追っているからか、、、
ここで初めて野生動物の超絶的なパワーを見せつけられて、古代人が岩画にこめようとしたのは、人間が叶わない動物たちの特殊能力だと気付いた。
また岡本先生が空海の雑体書には自然界の森羅万象がこめられていると持論を展開しているが、空海が益田池碑銘に動物や鳥、虫、龍、自然現象を書体として閉じこめ、その目に見えないパワーを表現し伝えようとしたことが、岩画を彫った人と通じているように思った。
岩画を彫った人はシャーマンだったという説もある。空海は超人沙門であるから当然か。
キャンプ場は標高1467メートルの高原にあった。
夕食の後、食堂の屋上でツアーに同行して頂いているモンゴル歴史考古学研究所アカデミーのバドホルト先生の講義を受けた。
目の前には高原の空が夕焼けに燃え立つ荘厳なパノラマ、背後には虹の柱の隣に雨のカーテンが天から大地に引かれ夕日を浴びて黄金色の雨を降らせていた。
同時にこんな凄い風景を見せるのが、ゴビ砂漠の広大さなのだろう。
「世界一受けたい授業」という声が上がったが、まさに素晴らしい青空教室だった。