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Channel: 思いのしずく
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邂逅の森

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最近は余り小説を読まなくなった。
事実は小説より奇なりであり、ノンフィクションの方が面白い。
でも、ずっと気になっている小説があった。
熊谷達也「邂逅の森」。
20年も通っている仙台の直木賞作家の作品なので、読んで当然。
しかも仙台でお世話になっている恩人からも、熊谷達也さんは神のような作家と言われたことが頭の隅にこびりついていたので、読む気まんまんだった。
それなのに、自分が本書を手にするまでに13年の躊躇があった。
こどもの頃、読書に目覚めさせてくれたのが「ジャングル・ブック」や「シートン動物記」、ジャック・ロンドン「白い牙」だった。
これらの物語に影響されて動物への関心が高じ、アメリカのイエローストーン国立公園に行くことを夢見て育った。
それは未だ叶えられずにいるが、ケニヤのアンボセリ国立公園やマサイ・マラ国立公園でサファリを行ない、野生動物の世界を味わうことが出来た。

だからテレビの動物番組は極力見る。ナショ・ジオも目を通すが、動物小説は敬遠していた。映像に勝る動物小説はないと思っていたからだ。
しかし今は「邂逅の森」に魂を鷲づかみにされた深い余韻から脱け出せないでいる。
野生の熊とマタギの格闘をリアルに描き切っただけでなく、人間の中に眠る野性を強烈に引き出して見せた。その野性とは人間の業である。
熊谷文学に潜む人間の業の冥さが、ずしりと重かった。
むかし「砂の器」でこの重さを味わったことを思い出した。
これだけ酔わせるキツい酒を飲んだ後に、それを鎮める酒は何を読めばよいのか。

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