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Channel: 思いのしずく
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高村薫『空海』3

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先週、大阪へ仕事の先輩を訪ねた時、「はい、お土産」、と言って新聞をいただいた。
朝日新聞10月26日の文芸テラスに載った高村薫 新刊『空海』の記事である。

タイトルは「弘法大師 オーラの源を追って」。

高村さんはこの本の中で、難しいことは一気に飛び越えて、空海と真言密教の要諦を、たった3文字の「オーラ」で看破してくれた。
記事の中で印象深かったのは、空海の明るさである。

昨年から今年の春にかけて、四国霊場および高野山開創1200年を記念した、空海にかかわる仕事をさせていただいた。
高松三越の第3回岡本光平空海展に始まり、幼き日の空海も遊んだ74番札所 甲山寺の客殿襖50枚に、前代未聞の般若心経を制作する壮大なプロジェクトにも挑戦した。
それらを通して四国霊場会や、香川県真言宗連盟のお坊さん達とも親しくさせていただいた。

そうして感じたことは、空海に関わっていると、なぜだか明るい気持ちになること。
たとえば空海の修行の場である槇尾山施福寺の険しい参道を一人で登っていても、室戸岬(上のフォト)に立っていても、常に高揚感と共に満ち足りた気分になる。
宗教はもっと暗くじめっとしたイメージがあるのだが、空海に関しては違うようだ。

連盟の若きリーダー達も、空海を慕うことでは人後に落ちない熱き空海信者であるが、彼らと一緒にいると常にエネルギーが満たされ、幸せな気持ちにさせてもらえる。

空海には会ったことないが、おそらく偉い立場を感じさせない、 この若きお坊さん達のように気さくで誰彼隔てなく、快活な笑顔で包み込んでくれる親しさを持つ人だったと想像したくなる。

高村さんは高野山を取材で訪れた時に、「町全体雰囲気の明るさが強く印象に残った」そうだ。

「真言宗と同時期に興った天台宗の開祖最澄は、教義を巡って他の僧と激しく論争を繰り広げた一方、空海は様々な考えを受け入れる寛容さがあった。その姿勢が、後の大師信仰の広がりと結びついているのではないか。“高野山が明るいのは、一般の人に目いっぱい開かれている真言宗ならではでしょう”と語る。」

高村さんは『太陽を曳く馬』で抽象絵画の巨星マーク・ロスコを書いている。
自分が一番興味を持ってきたマーク・ロスコと空海、高村さんがこの二人を作品にしたということは、それぞれに共通する因子を感じているのではないだろうか。

空海曼荼羅が宇宙の緻密な形象であるとしたら、ロスコの絵もまたシンプルな曼荼羅なのかも知れないと思えて来た。

どちらもその前に立った時に、宇宙に等しい無限の奥行きと広がりを感じる。

もしかすると、多神教の空海が描いた宇宙が曼荼羅であり、一神教のロスコが描いた曼荼羅が彼のシーグラム壁画のような気がしてきた。

ロスコの何も描いていないような大キャンバスに対面した時に、 見えない存在を絵の中に感じたが、それはあたかも 高野山奥の院にある弘法大師御廟の前に立った時の体験に重なるものだった。

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甲山寺の般若心経曼荼羅

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