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Channel: 思いのしずく
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神保町散策

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年明けから慌ただしい日々が続いた。
午年のせいかやたら駆け足しながら、ときに障害物レースの如きものも飛び越え、なんとか第一コーナーを回り終えた。

その間、息切れしそうになる時も、自身を奮い起たせてくれたのが冲方丁 「光圀伝」。
分厚い750ページを新幹線の中で読みはじめ、名古屋三越の1週間、早起きしてコメダのモーニングセットをかじりながら読み浸った。

読むきっかけは、木人形作家 渡辺雄二先生の 「男らしい日本語が見事な文体」 という一言に触発されたから。

テレビ界の偉大なるマンネリであったがために、この啓示がなかったら振り返りもしなかった黄門様である。

徳川家康の血脈を継ぐ係累の中で、最も有名人である黄門様について、諸国漫遊はしなかったという事実を知りながら、なぜ後世にこれほど人を惹き付けて止まないのかということまでは考えもしなかった。

そこに目を止め、とことん解明してくれたのが、冲方丁さんである。

徳川幕府の草莽期に幕藩体制の礎を築いた名君保科正之、幕府の終焉に傑出した才を発揮した山岡鉄舟、この二人に負けず劣らず偉業を成し遂げた光圀の人生を存分に知った。

しかも頭脳明晰、大胆不敵かつ深謀遠慮の人であった光圀を描く文体も、一字一句揺るがせにしない堅牢な構築を成しており、溌剌たる光圀の気息を直に感じるような読み応えがあった。
これを30代半ばの人が書いていることに、世の中の広さを教えられる。

文体の強さから一気に読み進める本ではないが、新しいページを捲る明日が待ち遠しいくらい、文章に奥行を感じる満ち足りた日々だった。
 
このように人生を全うした人の生き方は、果たして如何なるものかと思いをめぐらせていたところ、今朝の読売朝刊 「五郎ワールド」 に目が止まった。
 
46歳という若さで腎臓がんで亡くなった池田晶子さんの言葉だ。
 
「死ぬことは怖くない。つまらない生を生きることの方が怖い。」
 
きっと正之も鉄舟も光圀もこのような覚悟に生きた人だったのだろう。


昨日、出張から帰ったつかの間、馬車馬から自分を取り戻そうと、久々に神田神保町の古書店を歩いた。

一軒目で4冊購入。
昨年末からハマっている山本兼一の 「火天の城」、太田和彦 「居酒屋おくのほそ道」、早川光 「鮨水谷の悦楽」、安岡章太郎 「父の酒」。

何年か前までは絵画展で東北をくまなく回っていたが、今は仙台しか行かなくなってしまった。
それをちょっと懐かしんで、東北、北陸の盛り場を探訪する太田さんに同行。

銀座の高級寿司店には怖くて行けない。しかし早川さんの本は、カウンター越しに高級店の中身をカラー写真付きでじっくり味あわせてくれるミシュラン最高峰のおもてなし。

安岡章太郎は2日の読売朝刊の書評欄で 「歴史の温もり 安岡章太郎歴史文集」 を読んで、頭の片隅に引っ掛かっていた。
昨年亡くなってしまった文士を、もう一度振り返りたい気がして手に取った。

安岡作品は 「流離譚」 しか読んでないが、上士、下士という土佐藩の過酷な身分差別の実態を教えられて衝撃を受けた。
坂本龍馬をはじめ志士を輩出した土壌が痛いほどわかる。

昼飯時にスズラン通りの 「キッチン南海」 へ行くと、店から溢れる人の列。
かつての学生街の雰囲気を味あわせてくれる貴重な店で、学生からはるか遠去かった胃には堪えるボリューム満点のカツカレーを平らげる。

キッチン南海を出て、はす向かいの風月洞書店にたまたま寄ると、かねてから探していた 『古美術緑青』 が並んでいた。

岡本光平先生の古代韓国紀行や千利休のルーツを探訪する 「風の旅」 が連載されたVol 2~8号までを入手することができた。

もしかしたら、これに呼ばれて神保町に来たのかと思ったほど、嬉しい出会いだった。

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