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ノンフィクション 戦うライターたち

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この半年間に読んできた本が、枕元に積み上がってきた。
振り返れば皆ノンフィクションだった。
きっかけは健さんと文太さんの死である。


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「高倉健と任侠映画」 山平重樹 (徳間カレッジ文庫)
小学生の頃から父親に連れられて任侠映画を見てきたから懐かしい。
任侠映画を生み出した最大の功労者、東映任侠映画の大プロデューサー俊藤浩滋(藤純子の父親、「おそめ~伝説の銀座のマダム~」石井妙子・新潮文庫に詳しい)と並び立つ脚本家笠原和夫、この二人が一時代を作った。

「映画はやくざなり」 笠原和夫 (新潮社)

スター以上に、彼らを生み出した時代の仕掛人の存在をつぶさに知ることの出来る本。
あの時代、反社会的世界を描いた映画が、どうしてあれほど大手を振って世間を闊歩出来たのか、読むほどに興味尽きない。
人間は岩魚やヤマメと違って、清流には棲めない性なのだ。
数え上げれば切りがない数々のスターに対する思い入れがあるが、本書によって改めてスクリーンの裏方、ヤクザ映画を作る脚本家に興味を持った。


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「映画の奈落 完結編~北陸代理戦争事件~」 伊藤彰彦
立花隆が文庫の帯で、
「こんなに面白い本があるのか」
と謳っている通り、 東映やくざ映画の舞台裏をスリリングに描いた本書を読んで、立花さんのコピーが大袈裟でないことを知った。

主人公は脚本家 高田宏治、畏敬する先輩笠原和夫の「仁義なき戦い」を越えようと、ほんまもんのヤクザの世界を描いて行く。
映画の公開直後に映画と同じシナリオで、モデルとなった伝説のやくさが殺害される。
男を描く笠原和夫に対して、高田の武器は、女を描くことだった。
男の任侠映画の行き詰まりを打ち破るために登場したのが藤純子、実録路線のマンネリを打破した「極道の妻シリーズ」など、東映は男から女に活路を求めてさ迷う。


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自分としては「仁義なき戦い」の途中から、この東映映画の世界と距離をおいた。
いろいろ観て来た中で一番印象に残ったのが、渡哲也主演の「仁義の墓場」。
やっぱり仁義なきでは駄目なのだ。

この本が講談社+アルファ文庫の面白さとの出会いだった。
人間の心の闇をノンフィクションライターが次々に暴きたてる。
 講談社+アルファ文庫にのめり込むことになった。

「誘蛾灯~二つの連続不審死事件・美由紀と早苗~」 青木理
最近TVのコメンテーターとしても活躍している青木氏だが、生々しい取材の息遣いが伝わる名作。
それにしても、どうして一人前の男たちが悪女に易々と騙され殺されて行ったのか、深まる謎を見事に解き明かしてくれる。


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「やくざと芸能界」 なべおさみ
芸能界の第一線で活躍していたなべ氏が、ある日姿を消した。明大裏口入学事件である。
仁義を重んずる芸能界(ナベプロ)にあって、仁義を貫いた人だった。
水原弘、勝新太郎、ハナ肇の付き人を志願した人だけあって、面白さは文句ない。
自身のルーツを古代の秦氏から解き明かし、ヤクザ「役座」の歴史を紐解く異色の芸人論。

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「細木数子 魔女の履歴書」 溝口敦
ヤクザ以上に本物のヤクザだった細木数子が、一時期TVで持て囃されていた。
東映ヤクザ映画が世間に歓迎されていたことにも通じる、その時代の不思議な現象である。
果たして今の時代にも、後世から見て歪んだ露出がされているのだろうか。
ベストセラーだった占い本も、出版社の編集者が作ったものだった。
細木数子の予言は60%が当たらなかったというのに、それでもベストセラーを続けさせた庶民の感覚とは?
作られた虚像とまやかしの手口を明らかにし、表舞台から引きずり下ろしたルポライターの、悪と闘う筆に敬意を捧げたい。


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「ネットと愛国」 安田浩一
を読んでいる最中に「ヘイトスピーチ解消法」が施行された。
在日の人々に対する差別を、最悪の手段で行使した在特会(在日特権を許さぬ会)の実態とは何か?
個人的に近年最も心を痛めた川崎の「上村遼太君」事件の、今一つ分からなかった闇の真相も、「あとがき」を読んで知った。


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いずれも筆者が身の危険を省みず、真実の解明に立ち向かったノンフィクションだから、立花隆さんでなくとも驚きの名作だと思う。
しかもどれも名文なので読み応えある。
講談社+アルファ文庫、本屋の片隅で頑張っているこれらの本に、エールを送りたい。

つぎはこの1冊。


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